大空へ

「オカリナ・・・・ただいま。」 小さな岩の前でサイザーは呟いた。 数ヶ月前に置いて行った小さな花束は谷間風に吹かれて散ってしまった。 花の数も幾分か少なくなっている。 もうすぐこの谷にも冬がくるのだろう。 「ほら見て、花輪。作れるようになったんだ」 そう言って静かに花輪をかける。 まだまだ不細工だが相当練習してなんとか花輪に見えるまでにきた。 でも『彼』のつくった花輪には全然遠くて、ついおかしくなって1人でくすくすと笑う。 1人で話して、笑っているように見えるが、 彼女には見えているのだろう。一番大切な友達であり母であったオカリナが・・。 「終わったよ、全部。何もかも。哀しい思い出はみんな北の都に置いてきた・・・もう一度やりなおすんだ・・・。 でも、どうしようか?これから。」 これからどこへいくのか、何をするのか。 まだ彼女には何もわからない。 「人間の生活・・・何もわからないしなー・・・全然・・・  出来るといったら、笛を吹くとか字が読めるとか・・・そんなこと位・・・。」 不安がいっぱい。 でも・・・ 「おかしいかな?不安なのになんだかわくわくしてるんだ。  どんなことができるのか、誰に出会うのか。 これまではわからなかった何かがみつけられる。それだけでわくわくするよ。」 自分が自分でいられる。 子供の頃に自分を殺し、隠してきた彼女にとってはかえられない喜びだった。 「サイザーさん!」 後ろから声をかけられる。 「ライエル・・・」 「花輪持ってきたんだけど・・・いらないみたいだね」 彼の手には綺麗に花の向きがそろった花輪があった。 それを見るとなんだか自分の作ったものがおかしく思えて、ちょっとす拗ねてしまう。 「いいよっ、オカリナも綺麗なほうがいいだろっ」 ぶっきらぼうに言って立ち上がる。 ちょっとライエルの顔をにら睨んですこし小走りに駆けて行った。 変なの。 何意地になってるの? 自分が不器用なのは私自身が一番よく知ってる。 なのにどうしてこんな気持ちなの? なんだか悔しい。 相手が彼でもなんだか悔しい。 「サイザーさーん!!」 いろいろと迷っているうちにライエルが追いついてきた。 訳がわからなくて悔しいから返事もしない。振り向かない。 ちょっとだけにら睨むかんじの視線を送る。 彼は少しも動ぜずにっこり笑って 彼女の頭の上に花の冠を乗せる。 「さっきのはサイザーさんのと一緒に置いてきたんだ。  それで・・・さ、これ渡そうと思って・・・」 (変なの。 こんなに悔しいのになんだか怒ってたのに どうしてこんなに嬉しいのだろうな。) 「ね。オカリナさんとおそろいだよっ」 そう言って彼は私の手を引っ張って歩いて行く。 不意に空を見上げる。 今日は晴天。 雲が少し散らばる。 秋と冬の間の季節。 「サイザー?」 突然彼の声で引き戻される。 「え、あぁ・・・何?」 「ん・・・どうしたのかなって。」  「なんでもないよ。昔を・・思い出してただけ。」 彼はちょっと首をかしげる。 あの日もこんな天気だった。 「ライエル」 「ん?」 「色んなことが・・・あったよな。」 「・・・そうだね・・・」 今日は晴天。 雲がすこし散らばる。 秋と冬の間の季節。 あの日みたいな天気・・・。 「人間の生活・・・何にもわからないしなー・・・全然・・・  出来るといったら、笛を吹くとか字が読めるとか・・・そんなこと位・・・。」 今私がしたい事。 ライエルとの子供を産んで、本を読んであげること。 小さなお願い事。 でも大きなお願い事。 いつか・・・叶うかな・・・・ そんなことを微かな眠りに身を委ねながら思った。 これからのことはわからない。 わからないからわくわくしてる。 なんだか嬉しくて毎日が楽しい。 オカリナに伝わってるかな・・・? あの時の想い。 どきどきしてる自分の鼓動が伝わってる? 今なら、彼より花輪を上手につくる自信はある。 悔しかったから。がんばった。 彼のためにオカリナのために、私は頑張っていると今は言える。 だから ライエル。 お休みとれたら 二人であの谷にいこう。 ちょっと時間かかるけど、 いつか二人でもう一度花輪を作ろう。 今度は花がたくさん咲いてる春に・・・・。