雨の日の過ごし方

雨粒は大きく、激しく音を立てて窓ガラスにぶつかる。 タン、タン、と断続的なそれは、朝から止まる気配がない。 気だるげに金髪の髪を流し、サイザーはソファの背もたれへ体重を預けた。 暑い。 不快感だらけだ。 羽を背負っている以上、高い湿度との共存はなかなかにして難しい。 何処へ行ってもじめじめとした空気が纏わりつく。体が重い。 普段はその羽の利便性を実感することもあるのだが、この雨季にだけはその回数も少なくなる。 今はただ、邪魔なだけだ。 「体、だるい?」 聞き慣れた声に、いつの間にか閉じていた目蓋をそっと開けると、仕事を終えてきたらしいライエルが立っていた。 こちらを見下ろす瞳は心配そうに鈍り、眉は少し顰められている。 「………大丈、夫!」 あまりにも深刻そうなその眼差しに驚いて、サイザーは素早く身を起こした。 体が重たいだけで、特別体調が悪いわけではないのだ。 しかし、 「そんな顔して、何が大丈夫なの?  ほらほら、僕冷たいもの持ってくるから、サイザーは休んでて」 本当に、甘い人だと思う。 雨の湿気で体が重たい、とは立派に怠惰丸出しな事である筈なのに。 優しい人だと、思う。 体調が戻ったら、きちんと自分からお返しをしよう。 沢山沢山、彼の喜ぶことをしよう。 そうしたいと、心から思ったから。 次に晴れるのはいつなんだろう、と考えながら目蓋を閉じ、 そして開いた次の瞬間には、部屋の景色は幾分様子が変わっていた。 周りの光景は薄暗くなり、ランプの仄かな光が遠くで目に付いた。 どれ位眠ってしまっていたのだろう、と考え込んでいると 「起きた?」 寝転がった頭の横で、彼の声がした。 そっと目を配ると、サイザーの眠るソファに肘を突き、こちらを覗きこんでいた。 手には冷たく塗れたタオル。 …きっと、ずっと枕元で汗を拭ってくれていたのだろう。 しかし、それを押し付けがましく言うことなく、彼はそっと笑っていた。 「体調は…」 「ああ、大丈夫。…雨も、止んでるしな。」 窓の外へ目をやると、いつの間にか暗くなった景色に雨の粒は見えなかった。 雨音が無くなるだけで、一気に静寂は深くなる、ような気がする。 「今日はパンドラ母さんが晩御飯を支度してくれたよ。食べれそう?」 「うん…」 深い静寂の中に、二人でいるような錯覚がした。 控えめに開けられた窓から入る冷たい夜風が、サイザーの取り込む熱を払っていっていた。 明日は、久々に晴れるだろうか? 「なあ、ライエル」 「…なに?」 「晴れたら、出掛けよう。」 「うん。何処に行きたい?」 「…ライエルの、行きたい所に、行きたい。  何処へ、行きたい…?」 サイザーの突然の無茶な問い掛けに、ライエルはすっかり考え込んでしまった。 そこまで真剣に悩まなくても、と苦笑う。 悩み過ぎなくても直感で決めればいいのに。 貴方は優しい人だから。 場所を決めたとして、そこで何をするのかと聞かれたら。 当然答えは決まっているのだ。 気だるさの引いた体を起こし、顔を不敵な笑顔で飾り、 「ライエルの、やりたいことを、やろう。」 とりあえず、晴れたら貴方に「ありがとう」と言いたいのだけれど。