微笑ましいなぁ

※:王子様が生きてたらなぁ設定ですのでお気をつけて 「微笑ましいなぁ…」 優雅に紅茶を啜りながら呟いたその言葉に、 お?とライエルは目を見張った。 彼の人の視線の先には、親友夫婦のいつもの光景。 「何よぉッ!これの何処が不味いってのよー!!」 「はんっ!どこをどう食べても不味いだけだろが!!  こんなのが作れるなんて、これも才能かー?」 「ひ…酷いハーメル!!  兄さんやライエルが遊びに来るから、あたし張り切ってたのにー!!  しかもソレ!つまみぐいじゃない!!!!」 「つまみぐいだと?とんでもない!毒見だッ!   どーくーみッ!」 曰く、犬も食わない何とやら。 お互いを罵り合うようなこの会話も、その実 素直になれない2人の裏返しの言葉なのだ。 一通り言い終わってほとぼりが冷めた頃、顔を赤らめながら初々しく謝るのを ライエルは長い旅の中で何度か目撃していた。 今日、何だか彼の機嫌が悪いのも、 いつもより男の人口が多い所為? 「ハーちゃんてば、僕等にヤキモチ妬いてもねぇ…。」 苦笑するしかない状況に、呆れた気持ちが思わず口を突いて出る。 その横で肩を震わせて、リュートも同じように頷く。 自分は、ハーメルとの付き合いが一番長い。 だから、不可解にも思える言動や行動のひとつひとつが、手に取る様に解るのだけれど。 横に居るこの人は何故…? スフォルツェンドの大神官であり、王でもある彼が 親友の仕草ひとつでその心情まで汲み取ってしまえるほど、理解をする 時間があったのだろうか。 変わらず穏やかに夫婦を眺めるその瞳は、どこまでも深い青だった。 「よく解りますね、リュート様。」 「え?」 「いや、普通あんな喧嘩見てたら  慣れてないと相当落ち着かないです…よね?」 「あぁ、まぁ、そうだね。…そうなんだろうねぇ。」 王子様は右ストレートを繰り出した奥様を楽しげに見遣りながら、 静かに頷いた。 そして頬杖をついて、鍋蓋で頭をガードする旦那様に目を向ける。 「…でも、フルートがねぇ…」 「フルートちゃん?」 「幸せオーラがぶわわわ〜!…って出てるんだよね。」 「幸せ、オーラ。」 「うん、幸せオーラ。」 訝しげに彼女へ目を向けるが、ライエルには 鬼神の如くお玉を振りかざす彼女から『幸せオーラ』が見つけ出せない。 「ずっと、見てきたからね。解るんだよ。」 そして唐突に理解する。 自分が、親友の気持ちを汲み取れるように、 彼もまた、妹の気持ちが手に取るように解るのだろう。 喧嘩の出来る、何気ない日常への感謝の気持ち。 そんな所だろうか。 『幸せオーラ』を感じる、というリュートの表情もまた 幸せそうに感じるのは、ライエルだけだろうか。 「…でも生憎、僕は「夫婦水入らずの図」を見に来たんじゃないんだ。」 しかしその薄紅色をしたオーラは突如掻き消され、 何処に潜ませていたのか、リュートは十字形の得物を手に取った。 いつのまにか辺りにはどす黒いオーラが充満している。 「リュ…リュート様…!?」 「早くフルートと「兄妹水入らず」といこうじゃないか。」 律儀に「ごちそうさま。」と手を合わせると、 狭い部屋の中で器用に得物を素振りする。 ブオンブオンと鈍い音がライエルの耳元を掠めた。 「君も、とっととハーメルに用事を済ませて、サイザーの所に帰りたいだろう?」 にこりと女性悩殺な笑顔を浮かべながら、尚且つ据わった目でこちらを向くので ライエルは涙目になりながらコクコクと頷いた。 (頑張れ…ッ!ハーちゃん!!!) 朗らかな笑顔で出迎えてくれるであろう自分の奥さんに 一瞬お別れを言いながら、ライエルはハーメルから意識を手放した。 スタカットの夜に、天を割るような悲鳴が木霊したのはそれから3秒語の話。 ++++++++++++++++++++++++++ リュートお兄様大好きです。 シスコン大好きです。<だってハーメルンスキーですもんね!(何だソレ) リュートが生きていたら、と、ふと思ってしまうことも あったりなかったり。 フルートの丸太技はきっとお兄たんから受け継いだんだヨ☆★