いわゆるそれは、「政略結婚」 家同士の繋がりを作り、軍ないしは経済界の中での地位をより屈強的なものにする策。 この帝国の貴族の間では当たり前のように行われている事だ。 嫁ぎ先の主人と上手く暮らしていけるかどうかは、 また運と事前の下調べにかかるものの。 目の前に居る彼女は、幸せそうに微笑んでいた。 幸せなのだと思う。 本当に。 アズリアにはそれを羨む気持ちも妬む気持ちも湧いてこなかった。 ただ、いずれは同じ立場になるであろうことを、不思議な感覚で感じていた。 ふわふわと光に溶けていきそうなレース。 「貴方の色に」と佇む純白。 総て、今の自分とは異世界の事で、それでも必ず訪れること。 それを是とも否ともなく、アズリアは受け止めるだけだった。 貴族の娘はそういうものであると。 「お人好しで…いつもへらへら笑ってて…甘ったれで…とにかくバカで…」 指折り思い付く限り、彼の人柄を挙げていく。 胸元に浮かぶ言葉をそのまま出していただけなのに。 横に座る彼女は、呆気に取られた顔でまじまじとアズリアを見た。 「…え?」 視線に気づき目線を合わせる。 「…驚いたわ。」 「何が?」 「アズリアはそういう人、嫌いって言うわよね。」 目を丸くして呟く言葉に、アズリアは苦笑いする。 全く同感だ。 彼の何処に何故惹かれたのかなんて、自身も分かっていない。 けれど、惹かれていることは、そこに事実として存在している。 燃えるように赤い髪が視界の隅をかすめる。 結局自治区の祭りには行ったのだろうか? 一人でもきっと彼は楽しんでいるのだろうけど。 そこに自分が居ないのが、少し残念だった。 休みが明けた明日は、あれを見たこれがあったと煩いくらいに話してくるのだろう。 そしてアズリアは、呆れながらも話を聞いてしまう自身を思い浮かべる。 容易に。 「放っておけないんだよ。アイツは」 溜め息のようなアズリアの言葉に、彼女は嬉しそうに手元のグラスを空にした。 「良いわねぇ…あ、それでアズリア」 「え?」 続く言葉で、ふわりと浮き上がっていた頭は、 水を浴びせかけられたように現実へ引き戻される。 「その方のお家は、どちらなの?」