お人好しで、 いつもへらへら笑ってて、 甘ったれで、 とにかくバカで。 それでも強くて優しくて、でも脆くて。 放っておけない。 目が離せない。 愛しいと思う。 うちの家にご縁のある方だと良いのだけれど。 そう聞こえた声が最後に記憶に残っているだけだった。 その後は曖昧で、寮の自室に飛込んでからしか続いていない。 曖昧に残る感覚で、まだ知らないと当たり障りのない言葉をつむいだような覚えがある。 服を脱ぎ捨ててベッドへ潜り込む。 ぐらぐら痛む頭はアルコールのせいにして必死に目を瞑る。 眠れば忘れられるのではないかと。 しかし疲れている筈の体も裏切って、一向に眠気が訪れる気配が無い。 その間にも発作のように激情は起こり、アズリアの頭を痛める。 理解している、つもりだった。 自分が貴族の娘であることを。 了解しているはずだった。 彼が貴族ではないただの平民であることを。 けれど、今の様は何だろう。 長く続く学校生活で、多少「貴族の娘」である自覚が無くなっていたのかもしれない。 結婚というものに夢を抱いていた。 白いベール、白いドレス、誓いの言葉。 それを――彼と共に、と。 叶う筈もない。思いを交わらせてはいけなかった。 いずれは家の益になる者と契る。 先の見える恋心に、何の意味があるだろうか? 頭が痛い。 窓からは微かに欠けた月が、部屋へと反射光を注いでいた。 カーテンを引くの億劫だ。 アズリアは布団を頭まで被る。 世界から遮断されたような空間で、更に自分を切り離そうと目を固く閉じた。 想ってはいけない? その言葉ばかりが思考を駆け巡る。 月は変わらず、空に浮かんでいた。