人々の頭上に太陽は分け隔てなく上る。 それを望む望まぬに関わらず、夜は明ける。 今日ほど朝を望まぬ朝があっただろうか。 カーテンの隙間から漏れ出す光を、アズリアは顔をしかめて眺めた。 まだ思考に霞がかかっている。ズキズキとこめかみが痛い。 昨晩の出来事をゆっくりと思い出す。 何か特別大きなことがあったわけではない。 ただ、ひとつの事実に気づいただけだ。 彼と自分の大きな違いを。 赤い残像が視界の隅に移った瞬間。 「……―もうッ!」 頭まで被った布団を細く伸びた脚で蹴り上げた。 薄い布団は、ぱさりと音を立ててベッドの下へ滑り落ちてゆく。 大きく足音をたてて窓際へ近づく。 アズリアの白い肌が朝の光に浮かびあがった。 眩しい閃光に目を細め、それでも真っ青に広がる空を睨み付けて、 アズリアは両の手で自分の頬を打った。 何を迷っている! 自分がここに居る本当の目的は何だ! 恋にうつつを抜かすためではない。 ましてや、叶わぬそれを悲観する為ではない。 全ては家のために、弟のために。 背負うと決めた。立ち上がろうと決めた。 こんなことで。 こんなところで。 立ち止まっている暇はないというのに。 アズリアは俯いてしまいそうになる自分の顔を無理矢理上げた。 今は彼のことよりも、優先すべきことがある。 痛む心も迷う思考もさ迷う目線も、気づかないフリをして。 ―頭を切り替えて、深呼吸。 さぁ、大丈夫だろう? 自分に呼びかけた、その瞬間。 「…くしゅっ!」 あまり広くはない寮の部屋に、小さなくしゃみの音が響いた。