真夜中のフィラーレ

「…好き。」 「大好き。」 静かに囁いてみた声は、真っ白なシーツに零れていく。 夜の帳は落ちきり、遠くに聞こえる波の音だけがこの部屋と外の世界を繋げていた。 目の前には、枕に顔を伏せ、深く寝息を立てている彼の顔。 10センチの距離は心地よく。 穏やかな空気が満ち、今この時間だけが、何もかもを取り払って言葉を紡げるひと時だった。 いつだって言葉で愛を伝えてくれるのは彼の方。 いつだって言葉が足りないでいるのは私の方。 「好き」も「愛している」も、彼にねだられない限りは言ってあげられない。 それは意気地のない私の心のせい。 想いがないわけではない。 自分をここまで甘くさせるのも、苦しくさせるのも、幸せにさせるのも、彼以上の人はいない。 貰った想いをどうすれば返せるか、沢山沢山考えている。 だからこそ、今こうして囁くのだ。 世界中の誰にも、伝えるべき彼にさえ聞こえない今。 こうして練習をして、いつかは、 いつかは彼に向かって、愛を紡げたら。 「…ね?レックス。」 (今でも十分すぎるくらいなんだけどね、アズリア。)