冬のお出迎え

ただいまと凍えた声で、トレードマークのマフラーに顔を埋めながら帰ってきた彼を出迎える。 荷物を受け取ると、外気にあてられてすっかり冷えてしまっていた。 外は寒そうだなと言うと、子ども達は関係なく走り回ってるよと困ったような笑顔を浮かべる。 「ね、アズリア」 「ん?」 呼ばれた声に目線を上げると眼前に青い瞳が迫っていた。 飛び退く隙も与えられず腰を抱えられ、唇が重ねられる。彼がたまにねだる「おかえりのキス」だ 。 抵抗しようが叱り飛ばそうが懲りずに要求してくるので、面倒になった最近は受け入れることを覚 えてしまった。 けれど、「わわっ!」抱えた荷物を彼の胸元へ叩きつける。 「アズリア?」 「…冷たい」 顔を逸らして文句を言うと、意味が飲み込めないというように眉を寄せた。 深い意味は無く、単純だ。 驚くほどに口内が冷たかったのだ。 合わせられた唇と、なぞられた舌が冷え切っていて…ー驚いただけ。 それを素直に言えるはずもなくそのままでいると、彼はしょんぼりとした表情で再び顔を寄せてく る。 「こらレックス!」 「駄目?」 「冷たいから…嫌だ」 「冷たいって……」 首を回して自分の体を見渡し、しばらくすると思い至ったのか意地の悪い笑みを浮かべた。 「なぁんだ」 嫌な予感がしたので部屋の中へ進もうと足を向けるが、彼の動きの方が一瞬早く、腕を取られてし まう。 「アズリアの口の中、すごく温かかったから気づかなかったよ。そんなに俺冷えてた?」 「……だから嫌だと」 「ふふ、そんなの君が温めてくれたらいいんじゃない?」 いつの間にか持っていた荷物は近場に置かれ、代わりに頭をガッチリと抱えられてしまっていた。 微かな吐息が肌に掠める。 突然だった先の触れ合いとは違い、ゆっくりと彼は頬を寄せてきた。 擦れ合う鼻先と、次に感じるであろう口元の温度の冷たさが凍みる。 それを暖めてあげたいと思ってしまった時点で、今日の勝敗は決してしまったのだ。